NO.9「亀甲墓」

沖縄には亀の甲羅の形をした墓が多い。『風景考』という新聞連載を担当したとき、最終回で人は最後は必ず墓に入るのだという視点でテーマを設定し、ロケーションのいい墓所はどこだろうと探した結果、たどり着いたのが日本最西端の与那国島でした。一年で一番墓所がにぎあうという旧暦1月16日の「16日祭」に合わせて島を訪れました。祖内集落の裏手、コバルトグリーンの黒潮の源流に洗われる明るい小高い丘陵に巨大な亀甲墓が並ぶ絶好の墓所でした。亀の前足のように見えるのは実は母の足で、亀甲部分は母胎だといい、墓に入るのは母の元へ帰ることを意味するそうだ。幅6㍍、長さ10㍍、高さ2.5㍍ほどのものが多い。16日祭は島の伝統行事で、祖先と子孫、つまり死者と生者が共に祝う正月だそうで、当日は古代の遺跡を思わせる墓前に親族が集まり、ご馳走を食べ、ドナンという泡盛を飲み、蛇皮線の音色と共に島歌を歌ったりして一日を楽しく過ごす。あちこちに与那国馬やヤギが放牧され、凧揚げをする子供たちもおり、悠久と共にどこまでも明るい南国の光景でした。

黒潮洗う 墓所の丘に 春の風